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東京地方裁判所 平成4年(ワ)19622号 判決 1994年4月27日

主文

一  平成四年(ワ)第一九六二二号事件被告株式会社日刊スポーツ新聞社及び平成五年(ワ)第一一九七七号事件被告社団法人共同通信社は、原告に対し、各自金一〇万円及びこれに対する昭和六〇年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  平成四年(ワ)第二〇四〇一号事件被告株式会社デイリースポーツ社及び平成五年(ワ)第一二〇一四号事件被告社団法人共同通信社は、原告に対し、各自金一〇万円及びこれに対する昭和六〇年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  平成四年(ワ)第二〇八七八号事件被告株式会社スポーツニッポン新聞東京本社及び平成五年(ワ)第一二五二一号事件被告社団法人共同通信社は、原告に対し、各自金一〇万円及びこれに対する昭和六〇年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、全事件を通じて、これを一〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

六  本判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  請求

一  平成四年(ワ)第一九六二二号事件

被告株式会社日刊スポーツ新聞社(以下「被告日刊スポーツ」という。)は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  平成四年(ワ)第二〇四〇一号事件

被告株式会社デイリースポーツ社(以下「被告デイリースポーツ」という。)は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  平成四年(ワ)第二〇八七八号事件

被告株式会社スポーツニッポン新聞東京本社(以下「被告スポーツニッポン」という。)は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  平成五年(ワ)第一一九七七号、第一二〇一四号、第一二五二一号事件

被告社団法人共同通信社(以下「被告共同通信社」という。)は、原告に対し、金六〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告日刊スポーツ、被告デイリースポーツ及び同スポーツニッポン(以下右被告らをまとめて「被告新聞社ら」という。)の発行する各新聞紙に掲載された後記各記事(以下「本件各新聞記事」という。)によつて、名誉を毀損されたと主張する原告が、被告新聞社ら及び被告新聞社らに記事を配信した被告共同通信社に対し、不法行為に基づき損害賠償を請求する事件である。

一  争いのない事実及び証拠によつて容易に認められる事実

1  原告は、昭和六〇年九月一一日、いわゆる殴打事件(昭和五六年八月、原告の当時の妻花子がアメリカのロサンゼルス(以下「ロス」という。)で殴打されて負傷したという事件)の被疑者として逮捕され、同月一八日当時、殺人未遂容疑で勾留されていた。

2  被告日刊スポーツは、日刊紙「日刊スポーツ」、被告デイリースポーツは、日刊紙「デイリースポーツ」、被告スポーツニッポンは、日刊紙「スポーツニッポン」を定期的に発行、販売する新聞社であり、被告共同通信社は、国内、国外のニュースを加盟報道機関に提供することを目的とする社団法人である(争いがない)。被告新聞社らは、それぞれ被告共同通信社との間で、同被告の取材した記事の提供を受ける旨の契約を締結した。

3  被告共同通信社は、被告新聞社らに対し、昭和六〇年九月一七日に配信した記事(以下「本件配信記事」という。)において、「甲野、大麻草を自宅に隠す。元の妻が目撃証言」というタイトルのもとに、<1>ロス疑惑の殴打事件で逮捕された原告と共犯の乙山松子が大麻パーティーで結びついたことが明らかになつたが、警視庁特捜本部は、原告がかなり以前から女性と知り合うきつかけに大麻を使用していたり、自宅に大麻を隠し持つていた事実を関係者証言などから突き止めた旨、<2>原告の乱脈な生活ぶりを知る手掛かりとして、右特捜本部がこうした証言を重視している旨、<3>原告の大麻所持について証言したのは殴打事件の四年前の昭和五二年当時原告と生活していた二番目の妻A子(以下「A子」という。)らであり、原告とA子が昭和五三年二月ころに別居状態になる直前、A子が、台所の冷蔵庫を開けて、青色のビニール包みの中に両手いつぱいくらいの茶色の大麻草が隠してあつたことを発見し、これを原告に問いただすと、原告が大麻草であることを認め「これは高く売れるんだ。もし警察に見つかりそうになつたらトイレの水と一緒に流せばいい。」と指示した旨、<4>特捜本部は原告が昭和五一年ごろから毎年七回から一一回、ハワイやロスに渡航していた事実をつかんでおり、原告が米国で手に入れた大麻を日本に持ち帰つた可能性があるとみている旨、<5>原告が自宅に大麻を持つていた昭和五二年は、ロスで変死体で発見された丙川竹子が前夫と離婚して原告と親しくなつた時期である旨、<6>特捜本部の調べに対し、乙山は原告と知り合つたのが昭和五六年五月の都内のホテルで内密に開かれた大麻パーティーだつたことを自供し、ロス時代から原告の周辺にいた関係者らも原告が大麻を持つていたことをほのめかしている旨の各記述をした。

4  被告日刊スポーツは、昭和六〇年九月一八日付け記事(甲一)において、大見出しで「大麻漬け甲野」、見出しで「自宅の冷蔵庫に隠していた」、「2番目の妻が証言」等を掲げたうえ、本件配信記事のうち前記<5>以外の部分を順序を少し入れ替え、表現も若干変更したうえ掲載した(なお、それに加えて、大麻所持とは関係のない内容の記事が付加されている。)。

5  被告デイリースポーツは、昭和六〇年九月一八日付け記事(甲三)において、大見出しで「甲野自宅に大麻草隠す」、見出しで「二番目の妻目撃証言」、「女性と知り合う小道具。米国で入手。現行犯しか適用できず」を掲げたうえで、本件配信記事をそのまま掲載している。

6  被告スポーツニッポンは、昭和六〇年九月一八日付け記事において、大見出しで「甲野、大麻を所持(52年)」、見出しで「2番目の妻が証言」、「変死した竹子さんに接近した時期と一致」、「入手経路追及へ」を掲げたうえ、本件配信記事を順序を少し入れ替え、表現も若干変更して掲載し、それに加えて、リード部分で、原告が多量の大麻を吸つていたこと、原告が単なる末端吸引者ではないとの情報もあり入手ルートなど背後関係も追及するとの記事を載せ、本文で、社会部記者の談話として、原告について所轄が大麻取締法違反容疑で内偵したことがあり、原宿のディスコに出回つた大麻を追つているうちに原告が浮かんだもので、所轄は元締めでないにせよ売人役をしていた可能性があるとみており、少なくとも末端吸飲者ではなさそうだとの社会部記者の談話を載せている。

二  争点

1  本件各新聞記事が原告の名誉を毀損するものといえるか。

2  本件各新聞記事及び本件配信記事は真実か。仮に真実でないとして、真実と信じたことに相当性があるか。

3  損害額

第三  争点に対する判断

1  本件各新聞記事が原告の名誉を毀損するものといえるか。

前記第二、一に記載したように、本件各新聞記事は、「大麻漬け甲野」「甲野自宅に大麻草隠す」「甲野、大麻を所持(52年)」等の見出しを付したうえ、警視庁の特捜本部が、昭和六〇年九月一七日までに、原告がかなり以前から女性と知り合うきつかけに大麻を使つたり、右自宅に大麻を隠し持つていた事実を関係者の証言から突き止めたと断定し、原告がA子と別居状態になる昭和五三年二月ころの直前、自宅の冷蔵庫に両手いつぱいの大麻草を所持しており、二番目の妻がこれを発見したこと、特捜本部は、原告が昭和五一年ころから年に数回ハワイやロスに渡航していたことを根拠に原告がアメリカで手に入れた大麻草を日本に持ち帰つた可能性があるとみているとし、その他原告が乙山松子と昭和五六年五月に大麻パーティーで知り合つた旨の記事を掲載しているのであつて、一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、原告が、昭和五二年末から昭和五三年初めにかけて自宅の冷蔵庫に多量の大麻草を隠し持つていたなど、大麻と深くかかわつていたことを強く印象付ける記事である。

《証拠略》によれば、原告が大麻とかかわつていたことは、昭和五九年に既に報道されていたことが認められるから、本件各新聞記事は原告について全く新たな不利益事実を公表したものではない。しかし、本件各新聞記事は、原告が殴打事件で逮捕された約一週間後という、原告に対する世間の関心が極めて高まつていた時期に、殴打事件より四年以上前の国内における大麻所持という犯罪行為について具体的な態様を元妻の目撃証言を掲げて報じたものであり、しかも、単に目撃証言があるというだけでなく、警察がそれを事実として突き止めたとしているのであるから、本件各新聞記事は、原告の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものと認められる。

二 本件各新聞記事及び本件配信記事の真実性、真実と信じたことの相当性

1  事実の公共性、目的の公益性

本件各新聞記事は、殴打事件で逮捕勾留されている原告にかかわる大麻取締法違反という、本件各新聞記事掲載当時、未だ公訴の提起されていない原告の犯罪事実に関する記事であるから、その内容が公共の利害に関するものであり、専ら、公益を図る目的に出たものと認められる。

2  真実性または真実と信ずるに足る相当の理由

(一)  被告共同通信社について

(1) 真実性の証明

被告共同通信社は、本件配信記事作成にあたり、A子、殴打事件の被害者花子の妹の丁原梅子、警視庁特捜本部の関係者らに幾度かにわたり接触し取材活動を行い、原告が女性と知り合うきつかけに大麻を使用したり、自宅に大麻を隠し持つていたことが真実であると確信したのであつて、真実であるか、仮にそうでないとしても、真実と信ずるに足る相当の資料があつたと主張する。

そして、《証拠略》によれば、被告共同通信社社会部では、昭和五九年一月ころから殴打事件、銃撃事件(昭和五六年一一月、原告の当時の妻花子がロスで原告とともに銃撃され、後に死亡した事件)など原告に関する事件に対し、警視庁担当のキャップ、警視庁捜査一課(原告に関する捜査を担当)担当の三名の記者を中心に遊軍記者として四、五名の者を配置するという体制であつたこと、本件配信記事作成にあたり、社会部の記者である小山鉄郎がA子に対し、昭和五九年の一月二八日と二月一八日の二回取材していること、昭和五九年一月二八日の取材において小山記者は、A子の夫から、原告が自宅の冷蔵庫に大麻を入れて所持していて、高く売れるといつていたこと、もし警察が来たら大麻はトイレに流すようにと指示していたことを聞き(同日小山記者が作成したメモに同様の記載がある。)、A子の夫が席をはずした後、A子に一つ一つ確認したこと、同年二月一八日の取材では、A子から、大麻があつたのは自宅の冷蔵庫の中の上段に、ブルーのビニール袋に包まれていて、中には茶色の葉の茎みたいなものが入つていたこと、原告も大麻だといつており、見つかるといけないもので、友達が見つかりそうになつたけれど、トイレに流してしまつて分からなかつたから、見つかりそうになつたらトイレに流すんだよといつていたこと、その大麻は友達の誰かに渡すんだといつていたこと、冷蔵庫の中にあつたのは二、三日間であること、それは原告と別居状態になる昭和五三年二月ころの少し前のことであると聞いたこと、A子は大麻所持に関して警視庁から事情聴取をされたことがあるといつていたこと(しかし、その際には調書は作成されなかつた。)、警視庁特捜本部に関する記載部分は、警視庁の捜査一課担当の備前記者が取材したものであり、小山記者は備前記者から原告が昭和五二年に大麻を冷蔵庫の中に所持していたことを警視庁特捜本部に確認したと聞いたこと、原告に対し、逮捕以前に直接取材の申込みをしたが断られ、逮捕後は接見禁止のため話を聞くことができなかつたこと、その他フルハムロードの関係者、丁原梅子に近い人にも被告共同通信社の小山以外の記者が取材したこと、その結果、原告が国内でも大麻を吸つていたこと、原告執筆の丙五に原告が昭和五二年ころすでにアメリカに一〇回位行つている旨の記載があることを証言している。

右小山証言によれば、本件配信記事のうち昭和五三年初めころに原告が大麻草を所持していた旨をA子が語つたとの部分(前記第二、一、3の<3>の部分)は真実であると認められる。しかし、本件配信記事は、単に右のようにA子が語つたということにとどまらず、原告が右のころ大麻草を所持していたことを読者に印象付けるものと認められるから、右の原告の大麻草所持の事実自体の真実性が証明されなければならないものというべきである。そして、原告本人が右事実を否定する供述をしていることに照らし、右小山証言のみをもつて右事実自体の真実性の証明があつたものということはできず、他にこれを証するに足りる証拠はない。

また、右のA子からの取材に基づく部分(前記第二、一、3の<3>の部分)以外の本件配信記事の真実性についてみるに、《証拠略》によれば、警視庁特捜本部が原告が大麻を昭和五二年に所持していたことはもとより、原告が大麻に関与していたということを公式に発表したことはないことが認められ、前記警視庁の捜査一課担当の備前記者の取材についても、一応の裏付け取材をしたことは認定し得るものの、小山証言のみによつて真実捜査官がそのような断定的な捜査情報の提供をしたものと認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ない。そうすると、本件配信記事のうち、原告が昭和五二年ころ大麻を所持していた事実を警視庁特捜本部が突き止めていたとの部分に関しても真実であることの証明はない。

このように、本件配信記事は、その重要な部分につき真実性の証明がないものである。

(2) 真実と信ずるに足る相当の理由の存否

次に、被告共同通信社において、本件配信記事について真実と信ずるに足る相当の理由があるといえるか検討する。

まず、原告が昭和五二年に大麻を隠し持つていたとのA子の証言部分に関しては、前記認定のとおり、小山記者がA子本人に二回にわたり直接面接して取材した結果、A子が本件配信記事記載のとおり述べたというのであり、その内容も直接的、具体的かつ詳細であること、右取材直後においても配信直前においても原告から取材してその確認をすることはできなかつたこと、A子の供述内容は家庭内の事柄であり、A子及び原告以外の人物に直接確認して裏付けをとることができないこと、時期はともかく原告が大麻を何度も吸引したことがあること自体は当時既に報道されて広く知られており、事実であると認められたこと(昭和五六年以降における大麻吸引の事実自体は原告本人も自認している。)、警察に対しても一応の裏付け取材を行つたと認められることなどからすると、被告共同通信社がA子からの取材結果を真実と判断して記事を配信したことには相当の理由があつたものと認められる。

原告は、A子が、原告と離婚した妻であることから、事実でもないことを述べる可能性があることは経験則上明らかであると主張するが、小山記者の前記各取材は昭和五九年のことであるところ、小山証言によれば、A子は昭和五三年一二月に離婚して、当時既に五年以上が経過しており、再婚して子供も設けていたものであり、話しぶりも淡々としていたと認められるのであるから、A子が原告に対し恨みを持つて虚偽の事実を話すと考えなかつたことに不合理な点はない。

これに対して、本件配信記事のうち警視庁特捜本部が昭和五二年における原告の大麻草所持の事実を突き止めていたとする部分については、公式発表に基づくものでもなく、その裏付けとして警視庁捜査一課担当の備前記者がどの捜査官にどのような取材をしたのかなど、小山証言だけでは明らかではなく、真実と信ずるに足る相当の理由があつたことの証明はないものといわざるを得ない。そして、単に原告の元妻が原告の大麻草所持について証言したというのではなく、警察がそのことを真実として突き止めたと記載することは、読者に原告の大麻草所持の事実が真実であることを強く印象付けるものということができるから、本件配信記事は、その重要な部分について真実ではなく、かつ、被告共同通信社にこれを真実と信ずるに足る相当の理由があつたとはいえないということになる。

(二)  被告新聞社らについて

本件各新聞記事の重要な部分につき真実性の証明がないことは、本件配信記事について判示したことがそのまま当てはまる。

そこで、真実と信ずるに足る相当の理由の存否が問題となるところ、被告新聞社らは、警察庁の記者クラブに加盟していないため、捜査機関からの取材が困難であり、被告共同通信社は組織が大きく、取材陣に豊富なスタッフを配することができるため配信記事の信用性は高く、また、同被告との間で同被告提供のニュースの内容をゆがめるなどの行為を一切行わない旨の約定を結んでいるので、被告新聞社らが更に配信記事の裏付け取材をすることはないのであつて、本件配信記事を真実であると信じて本件各新聞記事を掲載したものであるから、真実と信ずるに足る相当の理由があつたと主張する。

しかし、信頼性の高い通信社から記事の配信を受けていたことのみをもつて、記事の掲載、報道につき何ら責任を負わないとする合理的理由はない。記事を配信した右通信社がその内容を真実と信ずるに足る相当の理由を有していたときは、これを信頼して記事として新聞に掲載した者もまた、真実と信ずるに足る相当の理由を有していると認めることができるが、通信社が右相当の理由を有していなかつた場合には、これを信頼したというだけでは、新聞社に右相当の理由があるとはいえないものと解すべきである。

そして、本件において、《証拠略》によれば、被告新聞社らは、被告共同通信社を信用していたため、何らの裏付け取材をせずにそのまま配信記事を各新聞紙に掲載したことが認められ、他に独自で裏付けをとつたと認めるに足りる証拠はない。

そうすると、真実と信ずるに足る相当の理由についても、本件配信記事について前述したことがすべてそのままあてはまるということができる。

なお、被告スポーツニッポンは、独自取材の記事を付け加えているが、横川喜一の証言によれば、被告スポーツニッポンの独自記事は、同社以外の警察回りをしている複数の社会部記者の取材による記事であるというものであるが、所轄の警察署からの公式発表があつたとは認められないし、十分な裏付け取材を伴つた記事であると認めるに足りる証拠はない。したがつて、この部分についても真実性ないし真実と信ずるに足る相当の理由の証明があるものとはいえない。

(三)  被告らの責任

(1) 被告新聞社らは、原告の名誉を毀損する内容を含む本件各新聞記事を掲載した前記各新聞を発行し、これを不特定、多数の読者に頒布したものであるから、それぞれ民法七〇九条に基づき、原告に対し、不法行為責任を負う。

(2) 被告共同通信社は、被告新聞社らが新聞記事として利用することを目的として、原告の名誉を毀損する内容を含む本件配信記事を被告新聞社らに配信し、その結果本件各新聞記事が掲載された新聞が発行されたのであるから、民法七〇九条に基づき、原告に対し、不法行為責任を負う。そして、被告共同通信社の右不法行為は、被告新聞社らの前記各不法行為と共同不法行為の関係に立つものと認められる。

三 損害の額

前記のように、本件各新聞記事は、真実と認めることができない部分を含むが、原告が大麻とかかわりがあつたことは既に報道されて広く知られていたこと、本件各新聞記事のうちA子が原告の大麻草所持について証言したとの部分については真実であると信ずるに足る相当の理由があつたのであり、これによつて原告の名誉が害された点については被告らの責任を問えないこと、原告とロス疑惑とのかかわりについては、原告の逮捕や従前のマスコミ報道により、原告の社会的評価が低下していたと認められること等を考慮すると、本件名誉毀損により原告が受けた精神的損害を慰謝すべき賠償金としては、本件各新聞記事ごとに各金一〇万円(被告共同通信社に関しては合計金三〇万円)が相当である。

(裁判長裁判官 大橋寛明 裁判官 田中俊次)

裁判官 佐藤哲治は、転官につき、署名捺印することができない。

(裁判長裁判官 大橋寛明)

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